つよポタミア

自転車関係の雑記帳です。

自転車乗りが筋トレをする理由(改)

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ロードバイクと筋トレは相性が悪いようで、そうでもない。

 

前回の記事(こちら)ではなんとなく筋トレを肯定的にとらえた。科学的な知見や専門家の意見を援用すると、持久系選手における筋トレは有用であることがわかった。自転車に乗る目的が何であれ、筋トレは役に立つ。 

 

もくじ

 

1.自転車乗りは筋トレ素人が多いので、他者との差をつけやすい?

Ph.Dの河森氏によると、ラグビーなどのパワー系競技の選手が筋トレに積極的なのは当然だが、自転車などの持久系競技では筋トレに理解のある持久系選手が少ないらしい。だからこそ持久系競技における筋トレは、競技力の底上げに大きく貢献できる余地があると述べている。

 

プロロード選手やハイアマチュアにとって筋トレは当たり前なのかもしれない。しかしホビーレーサーは「ホイールが〜」「フレームが〜」という会話の方が多い気がする。自分自身の肉体よりも、機材に関する知識の方が豊富な可能性がある(機材に詳しいだけの人をdisっているわけではない)。

 

2.筋トレは持久力を向上させる上でマイナスにはならない?

 

経験的にも、筋トレが持久力の向上を阻害しないことが納得できる。ただし、持久力トレは筋トレの効果を逓減させるとの指摘がある。

 

 

簡略化すると以下になる。

 

持久系トレ → 筋トレの効果↓ 【影響あり】

筋トレ → 持久系トレの効果→ 【影響なし】

 

理由の1つに体内の酵素のはたらき等が関わっている。持久系トレ(高強度インターバル含む)を行うとAMPKが、筋トレを行うとmTORCIが活性化される。持久力の改善につながるAMPKが、筋力の向上に関係するmTORCIの活性を阻害する(ハp280)。その逆はないらしい。AMPK活性については、田畑先生の本でも持久力の向上と関連づけられている(タp119)。

 

クライマー系が気になるのは体重増加であろう。筋肥大の程度は筋トレの重量とREP数次第ではある。ただ、高強度インターバルを行えば筋肥大が起こらない、というわけではなさそう。

 

タバタ週5を6週間実施した後に(これだけでも凄いが)、タバタを週3、筋トレを週3(スクワット・レッグカール12RM×4)実施したところ「被験者のジーパンが破れる“事件”が頻発」したとの報告がある(タp117)。トレイニー心理をくすぐる記述だ。そこで体重増加を避けたい場合の筋トレは、高負荷低REPにすべきとある(エp51)。

 

  

3.ロードバイク的に筋トレの効果とは何なのか?

 

ラストスパート能力の向上については、Ronnestadら(2011)の論文が元ネタである。被引用数が半端ない。持久トレ&筋トレ群(E+S)と持久トレのみ群(Eのみ)の比較実験である。

 

筋トレ詳細はリンク先に記載あり。なぜあの4種類なのかは論文そのものに書いていないが、股関節の伸展と屈曲がメインなので、ペダリング動作的にわかる気がする。トウレイズ4RMとか足吊りそう。

 

結果、心拍数やRPE(自覚的運動強度)などがE+S群で有意に低くなり、185分サイクリング(約175W)後の5分全力走で、E+S群のパワーがEのみ群に比べて有意に増加していることが示されている(スp12)。逃げ、横風区間、急坂などの勝負所で重要になるのが5分パワーなので、5分に着目しているとのこと(スp9)。

 

とすると、ラストスパート能力もそうだけど、レース中で明暗を分ける状況下においてE+S群の方が有利だよね、と解読できる。メンタルやスキルが同程度なら、フィジカル強い方が当然優位に立てる。これはツールドおきなわを走る上で非常に重要な示唆かもしれない。出たことないけど。

 

図.185分サイクリング後の5分全力走におけるパワー

 

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出所:Ronnestad et al.(2011)より抜粋

 

上図(スp28のFigure 5)から目視で適当にワット数を推測するとこんな感じ。

 

E+S(前):370W

E+S(後):395W 約7%の増加

Eのみ(前):380W

Eのみ(後):375W 約1.5%の減少

 

パワーあり過ぎと思ったら、被験者が西洋人なので体格がいいようだ。体重平均のビフォーアフターが、E+S群で76.1kg→76.7kg(0.6kg増加)、Eのみ群で74.9kg→74.1kg(0.8kg減少)となっていた。E+S群の体重増加に関しては有意とのこと(スp22)。筋トレをすると体重の増加は避けられないようだ。

 

パワーウェイトレシオでみるとこうなる。

 

E+S(前):4.86W/kg

E+S(後):5.15W/kg 約6%の増加

Eのみ(前):5.07W/kg

Eのみ(後):5.06W/kg ほぼ同じ

 

つまり、凄く大きな差とまでは言えないが、登りでも平地でも下りでもE+S群の方が有利になるのだ、と読み取れる。サンプル数が少ないのが若干気になるものの、へぇ〜って感じ。2011年に報告されているので、われわれ一般人に情報が届くまでタイムラグがあるんだなと思う。もしこのまま観察を続け、両方の群が筋トレなしで1ヶ月経過した場合に、パフォーマンスはどうなっているのだろうか?

 

他にレース的な観点から特に注目すべきは、VO2max強度でオールアウトする時間が延長したとの報告が複数挙げられていることである。これは初心者からアスリートまで共通している(エp50)。

 

怪我しづらい体にするという点は、そもそも私が筋トレを始めた理由とその経験則から納得できる。虚弱体質の私はCTLが70を超えてくるあたりから、脚が痛いとか腰が痛いとかの症状が出やすい。

 

筋トレをみっちり行うことによって、不具合が出るポイントを遅らせられる気がする。バイシクルクラブあたりで「冬は筋トレで速くなる!」みたいなTarzan記事がもっとあってもいいと思う。

 

 

4.筋トレで遅くなることもあるんじゃないの?

 

ある。筋肉がペダリング動作に使われなければ、ただの重りになることは直感的にも理解できる。Ph.D河森氏は、筋力等の競技動作への適用を「トレーニング効果の転移」という概念で紹介している。プロ選手が筋トレの後に、軽くペダリングをするとかの動画を見たことがあるかもしれない。  

 

筋トレは筋トレでも、低負荷高REP(自重両脚スクワット50回とか)は意味がない(ハp219)。筋トレが持久力の向上につながらなかったと報告された研究では、負荷が低い、期間が短い(6-12週)などの指摘がなされている。高負荷で12週以上の筋トレでは持久力が向上している(エp53)。

 

 

5.何で筋トレが自転車に効くの?

 

持久系競技において、いくつものメリットがあることは明らかだが、なぜ速くなるのだろうか。

 

「最大筋力が向上するとスキルの繰り返しに対して必要な相対的な力が少なくてすむことであり、そのときに要求されるエネルギーも少なくてすむ。もう1つは・・・」

 

『ハイパフォーマンスの科学』では最大筋力と相対筋力という概念が紹介されている(ハp219)。似たような記述が『エンデュランストレーニングの科学』にもある(エp53)。最大筋力が100あって常に10の筋力でペダリングをするのと、最大筋力が150あって10の筋力でペダリングをするのはどちらが楽で効率的でしょうか、という意味だろう。

 

しかしこの例えだと速くなってはいないし、ビルダー最速になるので何かの理解(速筋とか遅筋とか)が抜けている。

 

他にも自転車選手などが傷害を受けやすい腱についても記載があり、非常にためになる。筋トレを行うトラック系の選手はロードにきても選手寿命が長く、筋トレをしないロード選手は選手寿命が短い傾向にあると書かれている(ハp220)。本当かな?

 

プロ選手とアマチュア選手で異なる能力の1つに、ごく短時間のパワーに違いがあると言われている(誰に?)。

 

持久力系や瞬発力系のトレーニングの種類に関わらず、速筋繊維のタイプIIX繊維が、速筋でありながら遅筋的なタイプIIA繊維に変化する(骨pp.18-19)。一方で、自転車選手において、筋トレ(16週)と持久トレをした群が持久トレのみの群よりも、タイプIIA繊維が有意に増加したことを示す報告がある(エp53)。こうした筋繊維の変化は短時間パフォーマンスの向上と関連づけられる。

 

つまり、同レベルの持久力やスキルを持つ選手達の中で、ロードレースでアタックがかかった時などに優位に立てるのは、筋トレを積極的に行っている自転車選手である可能性が示唆される(あるいは生まれつきタイプIIAの割合が高い選手)。

 

遺伝はともかく知見として重要なのは、トレーニング内容で筋繊維の割合を変化させられることにある。

 

筋トレとは関係ないけど面白いと思ったのが、上級者が4分×4、8分×4、16分×4のインターバル(いずれも最大強度)週2回を8週間行った場合、どれがLTおよびVO2maxパワーの向上に最も貢献するかという問いである(エp33)。どのメニューを行っても強くはなりそうだが・・・。

 

6.どんな筋トレをすれば良いの?

上述のRonnestadら(2011)の報告にある筋トレ内容で間違いはない。いずれにしろ科学的な知見からは高重量低REPが原則となる。

 

脚の日:

スクワット 6-10RM×5セット

ランジ 6-10RM×5セット

 

公安系トレーニーに教えてもらったメニューの一部である。フリーウェイトを前提としている。ウォームアップ以外のセット数で、6-10RM(Repetition Maximum)で調子や疲労に応じて重さを微調整しながら、1回1回オールアウトするつもりで行う。セーフティや補助がいるとなお良い。最終セットは50%1RM程度で20REPを目安に行う。脚の日は意識の高いトレーニーでも鬱々となっている場合がある。

 

これはちょっと多すぎると思われるかもしれないが、このやり方を裏付ける知見がある。石井先生によれば大腿四頭筋に十分効かせるためには、少なくとも8セットは必要とある(石p97)。セットの最後に低〜中負荷高REPで追い込むと、スタミナの養成にもなるとある。これはホリスティック法と呼ばれている(石p161)。公安系トレーニーの経験則が科学の知見と一致しているのは興味深い。

 

ただし、自転車選手は筋肥大をほどほどにしつつ、筋パワーの向上を目指したいので、もっと高負荷で低REPが望ましいのかもしれない。

 

 

7.ペダリングは片足ずつだから、片足の筋トレが良い?

  

脚に重りをつけてファルカンフェイントを行えば、ファルカンのようにファルカンフェイントを繰り出せるようになるのだろうか?

 

河森博士は、競技特異的な動作を、筋トレに持ち込むことの危うさを繰り返し指摘している。筋トレの動作は「安全に大胸筋や大腿四頭筋をトレーニングするためにベストな形態」であり、むしろ競技動作とは結びつけない方がよいと石井先生も述べている(石p234)。

 

可動域に関しても議論が分かれる部分である。自転車の良いトレーニング本でも(例:○ース・○ルディング・○ォー・○イクリスト)、自転車の乗車姿勢に近い可動域で筋トレを行うべきと主張している場合がある。自転車と同じ可動域で筋トレを行うことが、結果的にトレーニング効果をより高めるのであれば、そうすべきである。ただ、自転車に詳しいことと筋トレに詳しいことは別である。

 

ちなみにランジは片足ずつだが、これは大臀筋を効率的に鍛えるための筋トレであり、ペダリング動作と結びつけているわけではない。またランジはお尻に効くだけではなく、バランスを取る能力がアップするため、ランナーに勧められている(新p21)。

 

筋トレはあくまで筋肉のためのトレーニングである。ペダリング動作はいったん横に置き、筋トレ的に正しいとされるフォームで可動域を大きく取って行うようにしている。

 

ただし、Ronnstadらの報告にある筋トレ内容は片足トレーニングである(スクワットを除く)。片足で差し支えない種目は片足ずつの方が好ましい可能性がある。

 

 

8.筋トレ後のリカバリーはどうするの?

 

食事、睡眠、プロテイン以外で注目すべきは抗酸化物質である。ポリフェノールなどの抗酸化作用が期待される物質で、筋肉へのダメージが抑えられる(リp101)。タルトチェリージュースという飲んだこともないジュースに効果があるらしい。疼痛や炎症の程度、血中の抗酸化物質の量に有意差があったとの報告がある(ハp335)。

 

タルトチェリージュースはいくつか報告があるため、推しジュースなのだろう。論文そのものを読んでないので何とも言えないが、おそらくポリフェノールの一種であるアントシアニンが関係していると思われる。アントシアニンはブルーベリーやアサイーなどに含まれており、抗酸化作用や動脈硬化の予防が期待できる(サp111)。また筋トレ前のアントシアニン摂取により、筋疲労を抑え、回復を速めるという報告がある(有pp.6-7)。

 

ということは、リカバリードリンクとして通常入手できるのは、スーパーにあるアサイージュースということになる。しかし、アサイーの効果については今のところ明確なエビデンスがないため、今後の解明が待たれる(新p97)。

 

MSM(メチルサルフォニルメタン)は関節のケアに有効だが、炎症を抑えるだけでなく、高強度トレーニング等による免疫力の低下を抑え、体内の抗酸化物質の維持に貢献するとのこと(アpp.74-77)。iHerbでオススメMSMを確認したら売り切れていた。

 

【まとめ】

・筋トレ教団に入信しよう。

・生まれ持った才能が大事なので、筋トレをしなくても速い人は速い。

 

 

参考文献

ア=「あの「MSM」が解決してくれるかもしれない!」『IRONMAN3月号 No.231』(2017)

エ=『エンデュランストレーニングの科学 ー持久力向上のための理論と実践』(2015)

サ=『体の悩みを解決!ずっと元気に!サプリメント健康事典』(2015)

ス =「Strangth training improves 5-min all-out performance following 185min of cycling」(2011)

タ=『究極の科学的肉体改造メソッド タバタ式トレーニング』(2015)

ハ=『ハイパフォーマンスの科学 トップアスリートをめざすトレーニングガイド』(2016)

リ=『リカバリー ーアスリートの疲労回復のためにー』(2013)

石=『石井直方の筋肉まるわかり大事典』(2008)

有=「プロアントシアニジンの機能性解明と開発」(2000)

新=『〈東京大学教授〉石井直方の新・筋肉まるわかり大事典」(2015)

骨=「骨格筋はなぜ速筋繊維と遅筋繊維を備えているのか?」(2013)

 

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