つよポタミア

自転車関係などの雑記帳です。

サイクリストの欲求ピラミッド

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図 マズローの欲求ピラミッド

 

マズローの欲求階層説にみるサイクリストの欲求

 

マズローの欲求階層説(上図)とは低次の欲求を満たすと高次の欲求が表れてくるという説である。

自転車という趣味って、マズローの5段階の欲求の、上の3つに対応している気がするんですよ。しかも、上位に行くほど自転車との相性が良くなる。たとえば、社会欲求や承認欲求は、クラブやチームに所属したりレースで結果を出したりすれば満たされますよね。

 一番重要なのが、最上段の欲求である「自己実現の欲求」です。自転車は、これとの相性がばっちりなのです。トレーニングをし、レースに出る。あるいは、苦しい思いをしながらヒルクライムや長距離サイクリングに挑戦する。こういう行動のモチベーションは、「なりたい自分になる」という、自己実現の欲求の表れに他なりません。

 出所:栗村修の”輪”生相談<130> 25歳男性「自転車って何が楽しいんでしょうか」

 

①非日常的な興奮や高揚感を味わい、現実の厭なことから逃避する。

②仲間たちと気軽な会話を楽しみ、つながりを感じ、仲間から認められる。

③技術やレベルを上げたり、戦果を挙げたりすることで、達成感や自己効力感を味わう。

出所:岡田尊司(2014)『インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで』

 

栗村(2018)が指摘するように自転車は高次の欲求と相性が良いが、一方で、サイクリング中には低次の欲求の欠落がしばしば起こる。岡田(2014)の指摘はオンラインゲームに関する記述だが、自転車にも大いに当てはまるところがあるのではないだろうか。

 

大まかなところではこれ以上の説明は必要ないかもしれないが、1つ1つの欲求階層を確認していく。

 

◆生理的欲求


バイタル、食事、水分(体内の恒常性)、排泄、睡眠、疼痛がないこと

 

低血糖や脱水は補給がおろそかになったり、レースやイベントの強度が高いと発生頻度が上がる。

 

極端な例では、ツールドおきなわで全身が吊る、ハンガーノックになるなどの症状が表れ、一時的に生理的な欲求の欠乏が起こる。長時間のレースでは排泄欲求との戦いもあり、トイレタイムがレースに影響を及ぼすこともあり得る。プロレベルだとテレビには映らない排泄テクニックが重要であるとも言われている。また排泄は軽量化を意味するため、承認欲求や自己実現欲求とも関連している。

 

ロングライドでは、臀部、ハムストリング、膝や首の痛みが発生しやすい。超長距離になると、アキレス腱や手首などの部位に疼痛を感じることもある。600ブルベでは睡眠が必要になり、300km先にビジネスホテルをドロップバッグとともに用意する参加者もいる。パリブレストパリ完走者曰く、600よりも400の方が辛いとのことである。

 

軽量でエアロなフレーム、ディスクブレーキ、チューブレス対応のホイールなどの機材の進化は、より速く快適に走れることを手助けする。目的に応じて良い機材を選べば、走行中の疼痛や苦痛を緩和することにもつながる。

 

 

この欲求階層は、通常生活では当たり前のように満たされていても、過酷な環境では結構な頻度で欠落することがある。

 

生理的な恒常性が失われるのなら、そもそもやらなければいいのに、という意見はまともなので傾聴に値しない。

 

【生理的欲求にかかわるアイテム】

心拍計

・補給食、ドリンク
・塩分、ミネラル、芍薬甘草湯
・サイクルウェア、シャモアクリーム
・アンダーウェア、気候に対応した小物
・用途にあったフレーム、ホイール、サドルなど

 

 

◆安全の欲求


良い自転車、良い装備、良い道路・ルート、最低限の技術、周囲の交通状況との調和

 

性能のよい自転車は低い出力でも比較的速度が出るため、安全ではないところもある。安物を買って走行中にハンドルが取れる、フォークが折れるなどの事故は可能な限り避けたい。それなりの金額をバイクに費やすことは合理的な選択である。

 

初めてのロードで、思ったよりも姿勢の維持が大変で、横を走る車との距離感が近いという印象を持ったかもしれない。いざ乗ってはみたものの、安全性が余りにも満たされていないと感じたサイクリストはそこでバイクを降りる。

 

そうでないサイクリストは継続してバイクに乗り、そのうち自分なりに安全だと思うルートや峠を探索していく。

 

ブルベではスタッフが試走をした上で、可能な限り安全なルートを提供してくれる(主催団体にもよる)。ただし、夜間の下りで低体温症になる場合があり、ちょっとした装備の選択ミスが生死を分けることもある。

 

イベントになれば位置取りを上手く行い、落車のリスクを減らす必要がある。レースではローリング中に落車が起こることもしばしばあり、スタート前にどこにバイクを置くかというのも重要になってくる。

 

またレース前にあご紐を注意される者は少なくない。ヘルメットが何の意味もなさないであろう被り方をしている人は、その時点でリスク管理能力が怪しい。

 

安全の欲求は、個人の感じ方が大きいところでもあるが、一方で道具や心がけでどうにかなる部分もある。ただし、備えあれば憂いなし、とは言い切れないところもあるから難しい。

 

【安全の欲求に関わるアイテム】
・良いバイク
・手袋、ヘルメット、アイウェア 
前照灯、尾灯、ミラー
・地図が表示できるサイコン
・フラットペダル

 


◆所属と愛の欲求


チームへの所属、練習仲間、ショップの常連

 

サイクリングにおいて誰にでも出現する欲求階層ではない。サイクリングは1人でも完結するスポーツであり、むしろ周囲との協調を好まない者も一定割合で存在する。

 

一方で、集団でエンジョイしたい層や、自転車競技にハマる層にとっては重要な欲求階層である。

 

走っていて脚力が付いてくると、イベントやコミュニティの方から自分に近づいてくることがある。ものは試しで走ってみると、集団走行やレースに適応してしまうことがある。そうすると自動的に集団への帰属欲求が起こる。この順番は人によっては全く逆だろう。

 

協調することへの適性が低い場合、仲間内で何らかのトラブルを起こし、いつの間にか集団からいなくなっている。あるいは居心地のいい集団を求めてさまよう場合もある。自分がグループリーダーとして集団を牽引することもある。

 

努力家で速いのに、周囲との連携がいまいちでグループから消えていくというのは何となく悲しいものがある。それは極めて自転車的なことである、と言えばそうかもしれないが。

 

【所属と愛の欲求に関わるアイテム】
・整備されたバイク
・チームジャージ
・ライセンス

 


◆承認欲求

 

他人からの承認と自分自身による承認(自尊感情)という2種類がある。

 

栗村(2018)や岡田(2014)が指摘するように、仲間内での評価やレースでの良い成績は他者からの承認を得られやすい要素である。そして仲間との他愛ない会話によっても刺激されるものでもある。

 

「○○でのアタックは凄かったですねぇ〜」
「□□さんの後ろに付くだけで大変ですよ〜」
「△△峠が31分ですか? それは速いですね〜!」

 

商売上手なお店は、個々の欲求や特徴を把握しており、それぞれに合わせた対応をしている。そのようなお店(≒店主)はこの欲求階層の重要性をよく理解している。

 

自尊感情は人によって様々で、近所をポダリングしていてもそれが満たされる場合から、様々なレースを通して満足させるケースまであるだろう。

 

距離信仰がある場合には、100km走った、200km走った、550kmを24時間で走ったなどの目安がある。SNSに書き込むことによって、同時に他者からの承認欲求も満たせる可能性がより高くなる。

 

ログをstravaに残し、KOMに君臨するというのも承認欲求に関連する。また現時点では開催が不明瞭なMt. 富士ヒルクライムの「ゴールドリング」「シルバーリング」「ブロンズリング」も大いに承認欲求を満たすと思われる。記録を残した者にとっては、原価が数百円のちゃちな指輪ではないのだ。

 

一言で言えば、体力や機材で速度が向上すると承認欲求は満たされやすくなる。

 

【承認欲求に関わるアイテム】
スマホ
・ローラー台
・パワーメーター
GPS付きのサイコン
・レースやイベントの賞品

 

 

自己実現の欲求

 

自分がなりたい何かになる、という欲求階層である。

 

ポダリングによる自己実現というのはあまりピンとこない。地域のスイーツ制覇という自己実現はあるかもしれないが。

 

過酷なイベントを達成することや難しいレースで良い成績を残す(または完走する)こととの関連性が強いだろう。自転車的には、トレーニングを継続している自分、目標のレースで望ましい走りをしている自分を追い求める欲求であろうか。

 

ある程度行きつくところまで行ったら、後進の育成やチームのサポート・運営、またはイベントの開催という形での自己実現もあるだろう。

 

いわゆるガチ勢と言われる人々は、大なり小なり自己実現を目指しているものだと思われる。レースで成績を出したい場合には、自転車に適応できる遺伝子や環境が必要ではある。しかし、どのような体力・技術レベルであっても、自分自身の限界にそれとなく挑んでいるという点には変わりはない。

 

これでサイクリストの欲求はだいたい網羅したと思うが、高級バイクを持つという所有欲もこの階層に含まれるのかもしれない。

 

自己実現の欲求に関わるアイテム】

・速く快適に自転車を走らせる全てのアイテム?

・所有欲を満たし、速く走らせることができる自転車?

 

 

◆まとめ

 

このようなサイクリストの欲求を満たすものをマズローの欲求ピラミッドに当てはめると、以下の図のようになる。 

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図 サイクリストの欲求ピラミッド(筆者作成)


【結論】自転車は機材スポーツだった!