W'balとは
W'bal (W' balance) とは、高強度用エネルギーのバッテリー残量、と解釈している。
W'は「ダブリュープライム」と発音する。「わらてん」ではない。
以下は『40 Goals: W'bal its implementation and optimisation』と『GoldenCheetah』の受け売りである。
2015年末にGoldenCheetah3.3がアップデートされ、W'関連の解析がより充実した。W'についてほとんど知らなかったため上記サイトで理解を深める。客観的な指標重視のホビーレーサーにとっては、W'balは非常に重要な概念であると思われる。
W'とCPの関係は以下の図で表される。
出所:GoldenCheetah
CPは長時間維持できるパワーの限界値で、出てくる数値はFTPに近い(たまに結構違うこともあるが)。CPについては以前に「クリティカルパワー(CP)の計算」という記事を書いたことがある。
CPは通常曲線で表されるが、上図ではW'をわかりやすく説明するために、あえて直線(≒FTP)にしていると推察される。1分走では早い時間でW'が枯渇し、5分走であれば時間をかけて枯渇するといった概念を示している。
W'とは、CPを超えたパワーを出した時に使う有限のエネルギー容量である。以前のGoldenCheetahではAWC(無酸素運動容量)と表されていた。W'の値に個人差はあるものの、10-40kJの範囲であるとされている。私は15-25kJの範囲に収まる傾向にある。
GoldenCheetahでは、20分と短時間(1-5分?)の数値を入れると、CPとW'を算出してくれる。こんなソフトがよく無料で利用できるなとつくづく思う。
以下の動画ではW'をバッテリーに喩えてわかりやすく説明している。
http://www.youtube.com/watch?
W'が蓄えられるエネルギー最大容量だとすれば、W'balとは高強度用エネルギーのバッテリー残量のようなものだ。スマホにあるような残りOO%の表示である。40 GoalsではW'balがサイコンに表示されるようになる日も近いとの指摘がなされている。tauは回復量で充電速度を表す数値である。設定されたCPの値で決定されるようである。
Endurance Index(EI)は、W'/CPの値である。例えばW': 20,000、CP:250の場合、EIは80となる。フィジカルの変化が、W'のせいなのかCPのせいなのかを把握できそう。あくまで割合なので、高いからいいという数値ではないだろう。
ROE(自己資本利益率)的に考えると、自分の有酸素系の体力(CP)に対して無酸素系の恩恵を受けられる大きさを表すということか。過去にW':28,000、CP:210で、この時のEIは133だったので、現在よりW'の恩恵を受けられていたということだろうか。いまいちよくわからない指標ではある。
主題にあるW'balはサイクリング状態だと100%である。CPを超えたパワーを出すとゼロに近づき、CP以下のパワーで脚を休めると自動回復する。スマホのバッテリーと違うのは、急速消費・急速充電であることだ。それゆえ"balance"という表現が適切なのだろう。
下の図は黒線がパワーで、赤い線がW'balである。横軸は時間を表している。
出所:GoldenCheetah
図でみるとなんてことはないが、この場合の20分ワーク×2というのはCPを超える強度である。
GoldenCheetahでの活用
GoldenCheetah上で実際にログとして表される図表が以下になる。図中の赤線がW'bal、黄色線がパワー、灰色部分が標高を示す。
出所:筆者のGoldenCheetah
300W4分、レスト2-3分、300W2分、レスト2-3分のインターバルを行った時のデータである。
図中のW'balでは、踏んでいる時に13.4kJから4.2kJとなり、レストで12.9kJにまで回復、次の踏みで4.6kJに減っていることがわかる。なお、W'の設定が実態から乖離していたり、FTP測定等を行ったりすると、W'balがマイナスに突入していることがある。
結果として表中のW'bal Zonesに集約される。最初は意味がわからなかったが、高強度バッテリーを減らしていた時間を示すものと解釈している。脚の削られ度といってもよいだろう。
puyan氏の記事では、W'balを「追い込み度」と表現しており、私も同様の感覚を抱いている。
それぞれのゾーンについて、感覚としてはこんな感じである。
W1:余裕
W2:ややきつい
W3:きつい
W4:ちぎれる/ちぎれた
表中右端の%はabove CP time÷時間で、あるゾーンにおいてCP以上で踏んでいた時間の割合を示していると思われる。じわじわと5分程度踏むことが多い場合は%が高く、1分でがばっと踏むことが多い時には%が低くなる傾向にある。
この指標を用いることで、練習やレース中にどのように踏んだか(踏まされたか)、ある瞬間での身体的な余裕度を追って観察できる。
GoldenCheetahでのデータ比較
◇方法
1."Activities"から2つ以上のワークを右方向にドラッグ&ドロップする
2."Ride"か"Stress"をクリックする
3.左下"Compare Activities and Intervals"の左端にある"ON""OFF"ボタンをクリックする。
◇特定のデータを比較したい場合
右上"More..."をクリックし、"All Chart Settings"の"Curves"から、データ項目を選択する。
◇特定の時間帯を細かく見たい場合
"Ride"や"Stress"の下にある□を左右に動かすと、表示範囲が変更できる。左右の矢印ボタンでスクロールする。
すると下図のような比較が可能となる。
出所:筆者のGoldenCheetah
あるルートを同様のメニューで行った時のデータを比較する。だいたい同じメニューではあるが、青い方の最後の1分が垂れているとか、そもそも標高の校正ができていないとかの情報が読み取れる。
生データを肴にして反省やシミュレーションを繰り返し、自転車脳を作ることはホビーレーサーにとっても有益であると思われる。こうしたことを繰り返せば木内野球ではないが一見不可解にも思える選択(あるいは刻々と変わる状況下での最適解)を自分なりのロジックで導けるようになるのかもしれない。私はちゃんとしたレースの経験がないのでよくわからないが。
なお、何が何でも勝ちたい人は自分のデータを公開することは賢明ではない。